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Creative Company Colors
リレー小説

【第1話】

​作:松尾美香

ドラマやなんかでも刑事物の舞台って言ったら横浜が多いだろ?
確かに賑やかでカップルやら家族連れやらが多い地域から少し離れればそこには、違法薬物取引、賭博の温床になってる地域なんかもあるし、昼間から怪しい奴がうろうろしてるようなとこもある。
まぁ港町なんて密輸、密入国が後を絶たないのが当たり前だし、その中でも横浜は日本一外国船舶が入港する街だからな。
こんな水際の巡回も仕方ない――と言えば仕方ない、の、だが。

「先輩、崎陽軒の焼売のこと、シュウマイじゃなくてシウマイって言わないと横浜の人怒るって本当ですか?」
「知らねぇよ」
「え、じゃあじゃあ先輩はどう言います?シュウマイ?シウマイ?」
「どっちだっていいだろ」
「えー、でもシウマイって言いづらくないですか?俺はシュウマイ派だな。あ、やばっ!こんなん聞かれたら俺袋叩きにされるかも!誰もいない?大丈夫かな」
「うるせぇなお前は!目立ったら意味ねぇんだよちょっと静かにしとけ!」
「………すみません。じゃあ小さい声で。1個だけいいですか?」
「なんだよ」
「横浜の人って、やっぱ語尾に“じゃん”って付けるんですか?」
「~~~~~~~!!」
殴りたい気持ちをぐっと抑えて、とにかく無視することに決めた俺は、完全に顔ごと車窓の方を向いた。

何故、慎重にならざるを得ない巡回にこんなバカを引き連れているのかと言うと、話は今朝に遡る。
「本日付で薬物銃器対策課に配属されました、唐津湊巳(からづみなみ)です!よろしくお願いしまっす!」
栗田課長に連れられて入ってきた新人はやたらとデカい声で名乗り、敬礼した。
うーわ苦手なタイプだなと思った瞬間、
「神崎、コイツの世話、頼むな」
「はぁ?!え、なんで俺なんですか」
「お前もそろそろ後輩の面倒見なきゃいけない歳だろうが」
「同じような歳なら他にも」
「神崎、ってあの神崎虹人さんですか?」
「あのかどうかは知らんが、そう。コイツが神崎虹人だよ」
こんな名前が他にもいる訳がない。
「うわぁ、お噂はかねがね!嬉しいなぁ、憧れの神崎さんに付けるなんて!」
「いや、まだ」
「ほうぅ良かったじゃないか、憧れの、だってよ」
いやアンタ笑いを嚙み殺した顔してるじゃないですか。
「よろしくお願いします!先輩!」

承諾したのは別にコイツに絆された訳じゃなく、ただの上司からの圧力だ。
栗田課長は今でこそ穏やかなものの、かつてはマル暴で腕を鳴らした強面で、怒らせるとどうなったもんか分かりゃしない。
それにしても、憧れの先輩に初日からシウマイだのじゃんだのの話をするか普通?
と回想混じりに考えていると、俺の頭越しに埠頭を見たらしき唐津が声を上げた。
「あっ!あそこの船、怪しくないですか?」
「??どれ」
「あの、黒と青の線が入った。黒ずくめの奴らがこんな時間に荷物持って出てきてますよ」
目を凝らすと、確かに何か動いているような気もする。
「お前、良く見えるな。目ぇいいのか」
「両目とも3.0です!多分」
「3.0?多分て」
「これ以上は測れないって言われました!あはは」
「あーまぁいいや。行くぞ」
「はい!」
どこで育ったらそんな視力でいられるんだと思ったが、今はそれどころじゃない。
車を発進させて、埠頭の方へと向かう。
「うわー何ですかね何ですかね、密輸?ヤクの取引?」
「いいから黙ってろマジで」
あまり近付き過ぎてもいけないので、離れた物影で車を停めた。
「慎重にな」
「はい」
しかし辺りは大分暗い。方向は分かるが、離れた場所でその様子が見えるかどうか…
応援を呼ぶかと携帯を出した時だった。
「俺、見てきますね!」
「は?!」
「大丈夫です、目いいんで!」
さっさと走り出した唐津を呼び戻そうとした時、その頭上に何かが動いた気配がした。
あれは…!
「おい、上!」
「え?」

――ドサッ!

その大きな何かは、運悪くか意図的にか唐津の真上から落ちてきたが、反射神経がいいのか、奴はそれをうまく受け止めたようだった。そう、その大きな何かは。

「親方!空から女の子が降ってきた!」

誰が親方だ。

【続く】

【第2話】

​作:村上貴弘

埠頭に停泊している船の甲板に一人の男。

岡林は煙草を銜えながら沈む夕日を眺めていた。

今回の仕事が終われば久しぶりに長めの休暇が取れると言われているが、いつものごとく急な呼び出しが入るに違いない。

この三年、まともに陸の上でゆっくりできた事がない。

仕事と言っても、外国人がちゃんと働いてるか眺めているだけだから特に忙しくなるわけではないのだが、それはそれで疲れるものだ。

 

何度目かの煙を吐き出した頃に後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。

「おかばやしさーん」

なんとも間抜けな呼びかけだ。

「どしたんすか、こんな所で?おりないんすか。久しぶりの陸地ですよね」

こいつは、桐山。一応俺の部下だ。

と言っても、俺が年中船の上だから日本の港に寄った時ぐらいにしか顔を合わせることはないのだが。

「どうせ降りてもすぐ乗るんだ」

「動かすのは夜っしょ。まだ結構時間ありますよ?俺ならマックとかいっちゃいますね」

うるせぇな。勝手に行けよ。お前そんなだから痩せねぇんだよ!とは口にしない。

「この時間の甲板が好きなんだよ」

「へぇ、ほんと船好きなんすね。じゃぁ、俺事務所に居ますね」

去っていく桐山の背中に

「好きなわけねぇだろ」

と呟きながら新しい煙草に火をつけた。

まったく、いつまでこんな事やってんだか。

 

俺たちの運んでいる『物資』は勿論合法の物ではない。

危ない仕事ではあるのだろうが、検査が入った所でバレる事はない。少なくとも今までは。

だが、万が一も考えられる。こんな所で俺の人生終わってたまるか!念には念をと、空いたじかんで貨物庫に降りることにした。

ひんやりとした静かな空間。

うん。嫌いじゃない。

自分の足音しか聞こえない。

ゆっくりと足音を楽しみながら歩いていると、ガサッと何かが動く音が聞こえた。

荷物の管理を任せている男か?

「ホセ?」

返事はない。

音のした方へ近づき

「誰だ!出てこい!」

居るかもわからない誰かに声をかけた。

気のせいかと思った瞬間。ガサガサと人の影。

女?いや、女の子?

俺と目が合ったかと思うと走り出した。

あっ、くそぅ。なんだ。

「待て!誰だ!」

勿論相手は答えてくれない。

くそっ、どうする俺!ほっとく?追う?

あー!めんどくせぇ。

「明日から休暇だってのによぉ!」

多分得られない休みの願望を口にしながら追いかける俺。

 

〈続く〉

【第3話】

​作:濵田茉莉奈

物語の続き

 

とある目が覚めたとき、身体の形、機能的にも

あ、人間だ自分。と思えた。

人間には人生という過去と未来がある。

でも今の自分にはそれに値するものがなさそうだった。

 

無という感覚でもない、だからと言って寂しさや悲しさがあるわけではない。

状況の把握が早く、なぜか全て受け入れることができる。

目覚めたとき側にいた人から成人女性らしく話されてたので女らしい。

名前は"メメたん"

特に異論反論もない。

カルテらしきディスプレイに"Meta"って記載があったけど"メメたん"です。

 

あと、recipeという空のファイルを渡された。

特に使わないけど持っておいてくれと言われてポケットにしまった。

 

「何をしても、どこへ行ってもいい。

たまに「チリーン」とベルのような音が鳴るから、その時だけファイルを開けて見てくれ。」

 

知らない奴から言われたのはただこれだけ。

 

それから何日も自由に過ごした。

生活の仕方はなんとなくわかっている。

好きなところへ行き、好きなものを食べて、ご近所とも仲良くなった。

 

たまに「チリーン」と鳴るベルは自分自身、メメたんから鳴っているようだった。

ファイルを開けてみても何も変わり映えはない。

ただ、メメたんが行ってない場所や経験や記憶がベルが鳴る度に増えている気がする。

 

ある日大型の船に乗った。

夜釣りができるという!楽しみだった。

釣り中「チリーン」と鳴った。魚が逃げてしまう!と思い慌てて船内に移動した。

 

ただよくよく考えるとこのベル音、他人に聞こえているのだろうか…?

「聞こえてないかもなー」と

ふふふと笑いながらファイルを開けるが変わり映えはない。

「yokohama?」には行ったことがない。

今は長崎にいる。

 

あと何でも格納できる頬袋が突然できた。

頬袋に入れたものはどんな機械でも見つからないらしい。

ただ12時間以上入れっぱなしだと痛んでしまう。

 

そしてすでに頬袋はパンパンだった。

これから夜釣りで釣ったお魚食べるところだし・・・

食べきれなかったら頬袋に入れてTakeOutできるじゃん!と思い、すでにパンパンだった頬袋の右側の中身をその場に吐き出した。

 

船内は暗くて吐き出したそれが何なのかはわからないが美味しいものではない。

その時、「誰だ!出てこい!」

と声をかけられた。

 

そんなつもりではなかったけれど、確かにこの行為は嘔吐にしか見えないかも…。

「船内じゃなく海へ吐け!」ってことですよね(汗)

すみません…!

 

と思いながら左側の頬袋から吐き出す準備をしてたため、声も出せずに、とにかく船外へ!

海へ向かって走ったメメたんでした。

 

つづく→

【第4話】

作・加藤智彩

「はぁはぁ…」

「くそっ、何なんだよ一体」

「先輩!あいつ何なんですかね!?」

「おい、あんた大丈夫か?」

「弾、当たってましたよね?ファンタジー!」

「ちょっと黙ってろってマジで」

 

『今日は本当に碌なことが無い』走りながら神崎は思った。

少女の次に自分の頭上に振ってきたのは、細身で筋肉質な男だった。

思わず全力で受け止めてしまったが、絵面の酷さは否めない。

男は降り立つとすぐさま何かに向けて発砲した。弾は脇腹を貫通した筈だった。

それなのに…その何かは唸り声をあげてこちらにも襲い掛かってきた。

咄嗟に投げ飛ばしたが利いていないようだった。

最初に走り出したのは先ほど空から降ってきた女の子だった。

続いて唐津。弾が尽きたのか、ふらついて倒れこむ男に肩を貸し、神崎も走り出した。

明らかに組織の人間である男とすさまじく足の速い少女、そして先ほど出くわした人間であるのか疑わしい何か。

一体何が起こっているのか…。

――――――――――――――

完全に下手打っちまった…。

放っておけば良かったんだ、よく見ればいってまだ20歳そこそこのがきんちょじゃねぇか。何か見られたところでそれが何か分かる筈も無いってのに。

完全に好奇心が勝ってしまった。これだから女に関わると碌な事がない。

散々学んだ筈なのにな、と今更独り言ちている場合でもないか…。

右肩が焼けるように熱い。噛まれた…よな?

あれは確かに荷物番を任せていたスペイン人のホセだった。

女を追って走っていたら突然襲い掛かられた。

物凄い力で掴みかかられて、揉み合いになって噛みつかれて、思わず俺は、携帯していた銃でホセの太もも辺りを撃ちぬいた。一瞬の隙をついて逃れることには成功したが、どういう訳か奴は撃たれた足を引きずりながらも追いかけてきた。普段は大人しく気の弱そうな奴だ。それが血走った目で唸り声をあげて…あれはまるで…

「ゾンビみたいでしたね」

岡林の思考を断ち切るように、唐津があっけらかんと言い放った。

「はぁ?なんだそりゃ」

神崎は持っていたハンカチを引き裂き、岡林の肩口からどくどくと流れる血を縛って止血した。

「え?知らないんですか!マジっすか。ウォーキングデッドシーズン11まで観ましたよ」

「それは知ってるよ。バタリアンだろ?」

「マジっすか?そこ行きます?」

「いや、王道だろ。いやそもそもそこじゃねぇ」

「ゾンビ映画はヒューマンドラマっすよね」

「だからそこじゃねぇって」

「なぁ」

放っておくといつまでも続きそうなやり取りに痺れを切らし、岡林は声をかけた。

「まず、助けてもらったことには礼を言う。だが、あんた達誰だ?こんな時間にこんなとこで何してる?」

「…それはお互い様だな。おまけにこんな物騒なもん。礼を尽くすなら、まずそっちから名乗るべきじゃねぇか」

「デートっす」

「…は?」

「いや、たまには変わったとこでデートしたいって虹やんが言うんで」

「誰が虹…」

「デートってつまり」

「はい、俺たち付き合ってるんで!ね?」

「あ…っああ…うん」

「あ!俺は唐田でこっちは虹やんです!」

「そ、そうか…俺は岡林だ。野暮なこと聞いて悪かったな」

「大丈夫っす!」

「…で、君は…?」

「あ、どうも。メメたんです」

「めめちゃん?」

「メメたん」

「愛称かな」

「名前です。うっ…もうダメだ」

「え?」

メメたんと名乗った謎の少女は、突然えづくと左頬から崎陽軒のシウマイ弁当を吐き出した。

「あぁ…痛んじゃってる」

「…シュウマイ?」

「シウマイっすよ、虹やん」

「うるせぇな」

「いや、そこじゃねぇだろ。今あんたそれ頬から出した?」

「メメたんです。箱の中にあったので」

「箱?箱ってまさか船の中の?」

「そう。お魚釣りながら食べようと思ったのに忘れてました。ふふ」

「箱の中にシウマイ弁当があったのか?」

「そうです。いっぱいあったから、一つくらいいいかなと思って。ほかの人も食べてたし」

「どういうことだ…?まさか物資がシウマイ弁当?」

「いや、あんたこそそこじゃねぇだろ」

「メメたん、何者っすか」

「メメたんは、女の子だよ。あ!」

 

メメたんは、突然ポケットから何やらファイルのようなものを出して眺めている。

 

「ファンタジーっすね」

「あのポケットにどうやって入れてたんだ?」

「ドラえもん的なことか」

「ますますファンタジーっすね!」

「それよりこれからどうする?とりあえず警察に」

「いや、悪いが警察はマズイ」

「そんなこと言ってる場合か?その傷、早く適切な処置をしないとヤバいぞ」

「近くの事務所に仲間がいる。まずはそいつに助けを求めよう」

 

神崎は迷った。このまま組織の人間と深く関わるとこちらにも危険が及ぶ可能性がある。唐津の滅茶苦茶な嘘が本気で信用されているとも思えない。しかし岡林一人を検挙したところで、摘発したことにはならないだろう。敵の懐に飛び込むべきか否か。しかもメメたんは一般人だ。いや、人なのか…?そもそもあの得たいの知れない生き物は放置していいのか?

 

「虹やんっ!」

 

試案する神崎の背後に、先ほどの得体の知れない何かが唸り声をあげて襲い掛かった。

逃げられない!そう思った瞬間、メメたんの頬袋が一気に膨らみ、何かが口からマシンガンのように飛び出し、怪物の頭を撃ちぬいた。

 

唸り声は消え、怪物は動かなくなった。

 

「倒した…?」

「なんだ今のは?」

「シュウマイ?」

「シウマイっす」

「だからそこじゃねぇ」

「なるほど、ヘッドショットか」

「ゾンビは基本頭を撃ちぬかないと死なないっすもんね」

 

怪物の頭には、メメたんから放たれたシウマイがめり込んでいた。

岡林は、かつてホセだった男を黙って見下ろした。

 

「そもそもなんでゾンビ化したんだ?」

「そりゃあアレっすよ、元はウイルス?」

「あとは感染した奴に噛まれたりとかだな」

「…ん?」

つづく

【第5話】

作・村上貴弘

嚙まれたら???

噛まれたな、俺。。。

岡林は、傷口を隠すように強く抑えた。

 

「でも、俺いつも不思議に思ってたんすよね」

「シュウマイの話はやめろよ」

「シウマイっすよ」

「もういいよ、なんでも」

「違うっす!噛まれたら感染するって事は体液?ウイルスが身体に入るとダメって事っすよね?」

「まぁ、そうなんじゃないのか」

「あんなに戦ったら飛沫感染するでしょ!全員アウトでしょ!!」

 

確かに。もしウイルスだとしたら、空気より重いのか軽いのかでも大きな違いがある。

いや、ゾンビなのだとしたら心肺は停止してるのだから息はしてないはず。

えっ??どういう事?

息をしてないのに唸り声を出せる?

無理じゃない?

無理だろ!

違う、違う!そんな事今考えてもしょうがないだろ。

 

「メメたんは大丈夫だよ」

「メメたんはゾンビにならないんすか?」

「そだよ」

「つまり、メメ…たんは抗体を持ってるのか?」

「違うよ!メメたんは、メメたんだからなのです!」

「やっぱそうっすよね!ですって、虹やん」

 

わからーーーん!!

何が?何で?どうして会話が成立してるんだ?

やっぱ?なにがやっぱそうなの?

んで、もう虹やんでこれから行く気だなお前。口に馴染ませようとしてるだろ。

 

「ちょっといいか…」

 

岡林の辛そうな声で我に帰った。

 

「すまん。すぐに手当てしないとな」

「いや、いいんだ。崎陽軒のシュウマイ弁当が船に沢山あったって?」

「そー!らしいな」

 

訂正を入れようとする唐津を遮った。

唐津の視線を感じるが、気づかないフリをする。

 

「会社からの差し入れじゃないのか?」

「そんな報告は受けてないし、今まで差し入れなんて一度もなかった」

「今、業績がいいからたまにはって事なんじゃないのか?それがどうした?」

「もしその弁当が原因でホセ…そこに倒れてる男が凶暴化したのであれば他にも凶暴化してるやつがいてもおかしく…」

「虹やん!!」

「なんだ、唐…田」

「さっきの船、人居なくなってる」

 

慌てて船の方を見るがやはり見えない。

ほんとかよ、こいつ。

 

「この時間に荷下ろししてるのは俺の船だけのはずだ」

「荷物散らばってるっす」

「ここから見えるのか?」

「あー、なんかこいつめちゃくちゃ目がいいらしいです」

「測定不能っす」

「とにかく、船に」

「いや、あんた凄い怪我だぞ。事務所に行くべきだろ」

「船の方が心配だ!それに船内に救護室がある」

 

やはり積荷が気になるって事か。

ここは慎重に動いた方が良さそうだな。

 

「そう…」

「流石っす!!船乗りの鏡っすね!」

 

おいおい唐津くん?

 

「メメたんも行くです。さっき頬袋から出してしまったの回収せねばです」

 

これまた不思議な事言ってるよ。

あー、もう!

さっきのゾンビみたいなのが溢れても困るし、行くしかないか。

 

「ほら、掴まれ。行こう」

 

静かな埠頭を4人?で船に向かって進んだ。

船に着くと荷物が散らばってる。

さっきまで運んでいた荷物を放り出して皆んな何処かへ行ってしまったようだ。

静かだ。

聞こえるのは波の音、メメたんの陽気な鼻歌とそれにいちいち反応する唐津の声、肩に寄りかかってる岡林の時折り苦しそうなうめき声ぐらいだ。

何が起こってる?

今にもスキップしそうな勢いで船に乗り込む2人を止めなければ。

 

「ちょっと待ってくれ!そんなスピードで動いたら彼の傷口が開いてしまう」

 

あぁ!と言う顔の2人。

何が起こってるのか検討も付かないのだとにかく慎重に進みたい。

ゆっくりと船内に入ると波の音が消え、より静かに感じる。

 

「誰か居ますかー!!」

 

唐津の声が響く。

返事はない。

 

「誰も居ないっすね」

「メメたんもやります!」

 

何故?

だが、同じように声が響くだけ。

 

「とりあえず救護室だ」

「すまない。このまま真っ直ぐ進んでくれ」

 

岡林を担ぎ直し進もうとしたその時、突然床が光り始めた。

 

「なんだこれは…」

「異世界転生きたー!!!」

「異世界???」

「ぎゃぁぁぁぁ、メメたん暗視モードだったです」

 

暗視モード?もう完全に人じゃないな。

目を瞑っているはずなのに眩しい。

何も頭がおかしくなりそうだ。

 

「くそー!!!」

 

何に悔しがっているのかわからないが、出てきた言葉はこれだった。

 

一体どれくらいの時間がたったのだろう。

眩しさもなくなりゆっくりと目を開けてみる。視点が定まらない。

ようやく目が慣れて、辺りを見回すと船内。

さっき?と同じだよな???

 

つづく

【第6話】

作・田中琢磨

「おい…どうなってる…」

返事はない。

「ふう…」

頭が混乱している。

こういう時は深呼吸して心を落ち着けて…

「すぅー…ふぅ〜…」

よし、目は慣れてきた。

俺は神崎虹人、記憶もある。

事実確認と行こうじゃないか。

ここはあの例の船、それは間違いない。

入ってきたドア、積荷、椅子の位置、何も変わっていない。

変わったことといえば俺以外の3人?が消えてしまった事だ。

「あいつらどこに…」

独り言ちているとゴゴゴゴと酷い重低音が鳴り響いた。

 

「ん?」

 

船が動き出した。

どういう事だ?

すぐに携帯電話を取り出してみるが電波がない。

俺が特捜機関等にいたら衛生通信でも使えたんだろうがただの一刑事には無理な話だ。

窓から外の様子を見てみると、そこは漆黒の闇。

何も見えなかった。

確かここは地下一階だったか…?

岡林?を担いでいたせいか疲労感が凄い。頭が痛い。あの光を浴びてから倦怠感もある。

とりあえずドアから出てみる。

 

ガチャ。

 

ドアから出て…

 

ガチャガチャ。

 

はぁ?

あ、開かない!!

閉じ込められた!?

どういう事だ、何が起こっている?

為す術なくもう一度窓を覗くが船はどこかに向け動いている事は間違いないが何も見えない。

諦めて積荷の捜査を進めるか…と思ったその瞬間。

 

コツコツ…と足音が聞こえ、ガチャ。

 

…鍵が開く音がした。

咄嗟に身を積荷に隠す。

ドアが開く。ギィーという音がすると

 

「メメたんはいりま〜す!」

 

はぁ?

頭が追いつかないが恐る恐る陰から覗いてみた。

「あ!」

「あ!」

思わず声を出してしまった。

メメたん?はこちらを発見するや否や駆け寄ってきて手を掴みぴょんぴょん跳ねながら

「せいこ〜!」

と喜んだ。

 

…何が?

「何が?」

 

動揺し過ぎて思っていた言葉が口に出る。

すると彼女?は「あ!ちりーん!」「まってー」と言うとポケットからそれには入らないであろうサイズの光る物体を取り出し、淡々と話し出した。

 

「初めましてワタシはヨーケン。ミスターKと呼んでくれてもいい。」

 

えらく機械的に話すメメたん…であったモノは先程までメメたんであった事を忘れてしまう程、別人だった。

 

「君は今長崎にいる」

「はぁ!?」

 

何かのドッキリか?!

栗田課長は何をさせたかったんだ!?

俺に何を求めている!?

 

「正確には長崎港を出て横浜へ向かう航路の途中だ。時刻は18時6分、今日は…月…ん日…天気は…」

 

頭がとっ散らかっていて会話が入ってこない。とりあえずドッキリでは無さそうだ。ん?

 

「待ってくれ今なんて?今日の18時?」

「そうだ。今日、世界は滅亡してしまう」

「何を…」

「この船が何を運んでいるか君も見たであろう。君には最初のパンデミックを止めて欲しいのだ。」

「あ…」

 

色々と思い出してきた。

そういえばどう見てもおかしい男―どうみてもおかしい女も目の前にいたが―がいた。

人間ではなくなってしまったかのような暴走した男。

シュウマイを発射してヘッドショットを見せた女。唐津は今どこで何を…

…また頭が痛くなってきた。

 

「共に居た2人もどこかにいる。健闘を祈る」

「ちょちょちょまっ!待ってくれ!」

「どったの」

 

メメたんだ。

ヤバい、あんまり聞いてなかった。

整理すると俺は5、6時間時を遡り、長崎港を出発したばかりのあの大型船に乗っていて、この船を横浜に着かないようにしなければいけない。…らしい。

事を起こすならもっと時間戻した方が良くないか…?

 

「ほえー」

「あ………?」

 

ドアを覗いているメメたん。

神崎も恐る恐る覗くと黒ずくめの衣装に身を包む外国人たちがひしめいていた。

 

「お友達になれるかなぁ」

「はぁ?」

 

続く。

【第7話】

《作・小菅博之》

さてこれからどうしたものか・・・

 

「さてこれからどうしたものかぁぁぁ」

「うわっ!なんで俺の考えてることがわかったんだ。」

「メメたんだからだよ?」

「そうか・・・・・・じゃぁしょうがない。」

 

この子の事を理解しようなんて思った俺が馬鹿だった。

知り合ってさほど時間が経過していないにもかかわらず、俺みたいな一般人には理解の及ばない出来事が多すぎる。

 

しかし、この状況は何だ。

<世界が滅んでしまう>なんて言われても、にわかには信じがたいし、なんで俺なんかがそれを止める使命を背負わなければならないんだ。

 

俺はそんな愚痴を吐きながら、日常からかけ離れた歪んだ状況をどう乗り切るか思考を巡らせていると、背後に嫌な気配を感じた。

その元を探るために、振り返ろうとする瞬間、様々な記憶が走馬灯のように去来し、得も言われぬ恐怖に全身を強張らせ、死という名の絶望に心が支配された。

 

「ジャキンッ!!!」

 

聞きなれない音。

頸椎を焼かれたような痛み。

体から「自分」が切り離され、床に落ちる鈍い感触。

そして、電源を落としたモニターのように景色が闇へと切り替わった。

 

 

「うぁぁぁぁぁぁぁ・・・・ハァハァハァ・・・どう・・・なってるんだ・・・・」

 

全力で短距離を走り終えた息苦しさと重度の二日酔いの症状が同時に発症したようだった。

とりあえず、パニックの状態を落ち着かせ、ゆっくりと目を開けてみた。

視点が定まらない。

ようやく目が慣れて、辺りを見回すと数分前に居た船内だった。

 

「なんだこれは、さっきと全く同じだ・・・・・」

 

ゴゴゴゴと酷い重低音が鳴り響き、船が動き出した。

相変わらずの疲労感、頭痛、倦怠感を覚えながら、目の前のドアに手を伸ばしてみる。

 

「開かない、これも同じか。」

 

コツコツ…と足音が聞こえ、ガチャ。

ギィーという音がすると

案の定メメたんだ。

 

「メメたんはいりま~す!」

「あ!」

「せいこ~!」

 

やはり同じ台詞と行動、そして光る物体をポケットから取り出す。

 

「お帰りなさい。思いのほか早いお戻りだな。」

 

初めての違うセリフだった。

 

「何がお帰りなさいだっ!これは一体どういう事だっ!」

「君は失敗したという事だよ。」

「失敗だぁ?」

「世界滅亡の原因となる最初のパンデミックを止めてくれとお願いをしたじゃないか。」

「拒否権も与えずに一方的に話を進めておいて、お願いだ?そういうのは脅迫っていうんだよ。」

「そう邪険にしないでくれ、これでも不憫だと思っているのだ。」

「何をいまさら!」

「世界を滅亡から救うには、君の活躍にかかっている。」

「だから勝手に話を進めるなっていってるだろう・・・」

「健闘を祈る。」

「おいっ!話をっ!!」

「どったの?」

 

メメたんに戻ってしまった。

状況的に何も進展してない、このままさっきと同じ事が起こるのだとしたら・・・・

また同じ目に遭うなんて御免だ。

 

「ほえー」

「お友達になれるかなぁ」

 

メメたんがさっきと同様にドアを覗いている。

恐る恐る覗くと黒ずくめの衣装に身を包む外国人たちがひしめいていた。

するといつの間にか背後に人の気配を感じる。

こいつだ。こいつに俺は殺された。

無意識に身体が反応し、鼓動が速くなる。

 

「だれだ!」

「うわっ!びっくりした!」

「あっさっきのひとー!」

 

それは、俺もメメたんも知っている馴染みのある人物だった。

 

「唐津?お前なのか?」

「やっぱり虹やんだ!よかったぁぁ・・・」

「近寄るな!」

 

自然と距離を取っていた。

 

「えっ、どうしたんですか。」

「どういうつもりだ!」

「何言ってるんスかぁ!どういうつもりもなにも!急に光に包まれたと思ったら貨物室みたいな所にワープしてて!そしたら周りには誰もいないし、怖いし、暗いし、臭いし、もう何が何だかわからないけど、とりあえず先輩たちを探さなきゃって思って探してたら、楽しそうに走っていくメメたんを見つけて必死に追いかけてきたんです!そうしたら・・・」

「わっ分かった、分かったから落ち着け。」

「ハァハァ・・・そしたら武装した奴らが階段から降りてきたんです。」

「外の黒づくめの奴らか」

「はい。ヤバいと思って咄嗟に通気口に隠れたんですが、奥から先輩の声が聞こえたんで進んでみたら。」

 

唐津は部屋の隅を指差した。

そこには大人一人がちょうど通れるくらいの四角い穴と本来塞いでいたであろう金属の網が転がっていた。

 

「ここに出たってわけか」

「はい!」

 

辻褄は合っている。とっさに出た嘘だとも思えない。

しかし、本当にこいつを信用していいのか。

首を落とされた感覚が未だに拭い切れない。

 

「お前・・・何か得物は持っていないのか?」

「得物って言われても・・・今日は地取りでしたから腰道具の携帯指示は出てなかったんで。」

「鋭利な刃物とか。」

「無いですよぉそんな物騒なものぉ」

「後ろを向いて壁に手を付けろ。」

「えっ!ちょっと!何も持ってないですって!どこ触ってるんですか!」

「いいから足を肩幅に開け。」

「もう疑り深いなぁ。そんなに武器が欲しいんですかぁ?」

「何も持っていない・・・か。悪かったな。」

 

それはそうだ。どうかしている。

一息に首を切断できる得物なんて、それこそ日本刀ぐらいの刃渡りが必要だ。

そう簡単に隠しきれるもんじゃない。

 

「俺みたいな一般人には理解の及ばない出来事が多すぎて、本当にどうかしちまったかもな。」

「だからそう言ったじゃないですかっ!!!!」

 

唐津の振り上げられた腕が日本刀のように形を変えたかと思うと鈍く光る刃が俺の頭に振り下ろされる。

犯人はヤス・・・・昔にあったゲームのフレーズを思い出した。

俺は驚くほど簡単に覚悟を決めた。

 

ジャキンッ!!!

 

「あぶないよぉ?」

「!?」

 

メメたんが顔色一つ変えずに、刃を腕で受け止めている。

そして俺の中では命の恩人に昇格した。

 

「お前大丈夫なのか?」

「何が?」

「なんで腕が切られないんだよ!?」

「メメたんだから!」

「そうか・・・じゃぁしょうがない!」

 

唐津らしき人物のみぞおちを全力で蹴とばした。

 

「とりあえずここから逃げるぞ!」

「ほーい」

 

メメたんの腕を握り、勢いよくドアを飛び出すと黒づくめの男たちが立ちはだかる。

 

「くそぉ!メメたん!ロケットパンチだ!」

「わかったぁ」

「できるのかよっ!?」

 

メメたんの腕が某アニメの必殺技の様に飛んでいく。

ドゴォーン!

凄まじい爆音と閃光が辺り一面を吹き飛ばした。

 

ようやく目が慣れて、辺りを見回すと数分前に居た船内だった。

 

「うわぁ・・・・・さっきと全く同じだ・・・・・」

 

 

 

つづく

【第8話】

《作・新八》

ったくなんだったんだ??

爆発に巻き込まれたと思ったら…

 

タイムリープ??

なんだそれ!?

そんなこと現実にあるのか??

 

「あ、気づいた〜??」

「メメたん?これはどういうことだ??なんで俺はまたこの船に…??」

「さぁ??」

「さぁ!?分からないのか!?」

 

そう聞いてもこの生物は何事もなかったかのように駆け回ってる…

 

「ったく…マジでどうなってんだ…?」

「さぁ?気になるならアレに聞いてみたら??」

「アレ?」

 

ふとメメたんが指さした先には

 

「…」

 

メメたんと瓜二つの生物がそこに佇んでいた

 

「…はぁ!?」

「マっていた、エラばれしモノよ」

「よ!選ばれし者〜!!」

「ちょっと待て!なんだそれ??そもそもお前は一体なんなんだ!?どうして…」

「それにコタえるには、おマエのジュンビがトトのっていない。」

「準備って…」

 

メメたんにそっくりなそいつはゆっくりと俺を制した。

 

「コンランするのはジュウジュウショウチだ。だがまずはジコショウカイといこう。」

 

なんだ?

なんなんだ??

混乱する頭で何とかこの現象を理解しようとする。

だがいくら考えても正解にはたどり着けない。

せめてなにかヒントでもくれ!っと目の前の生物を凝視した。

 

「ワがナはモモ。トキをツカサドるモノなり。」

 

…俺は更に混乱の渦に巻き込まれた。

 

〈続く〉

【第9話】
《作・松尾美香》

「……メメ」

「モモ」

「いや、メメた」

「モモ」

「あー、えっとその、メ」

「モモ」

 

くっそ!メメたんと何か関係が?的な事すら訊かせてもらえねぇ!

そうだ、それならこっちに、

 

「ぐーー」

「寝た?!え?おい!メメたん、」

「はっ!あ、そうだ。ねぇ、あなたモモ、って言ったよね?」

 

モモは頷く。やっぱり何か関係があるんだな。

メメたんが珍しく神妙な表情をしている。

 

「思ったんだけど……名前、モモたん、の方が良くない?」

「どうでもいい!!」

「そうだな。…イイだろう」

「イイんだ?!」

 

自棄気味になって俺はツッコんだ。

ああそうだな、メメたんに訊いた所で何か納得できるような事を言われる事はないだろうしな!

 

「そういや今回はアイツは出て来ないのか」

「アイツって?」

「ミスターK、いやヨーケンとか言ったか」

「ええ?メメたんと虹やんの他には誰もいなかったよ?」

「それは、ワタシがこのバ、そしてをジカンをシハイし、ガイブからのセッショクをシャダンしているからだ」

 

そういやトキをツカサドルとか言ってたな。もしかして、この妙な状況の事も何か教えてもらえるだろうか。

 

「あの、」

「ジョウキョウはリカイしている。オマエはカコにモドり、パンデミックをソシするようイわれた。セカイのメツボウをスクえ、と」

「…その通りだ」

「そしてスデに2カイ、シッパイした」

「ああ」

「オマエはヤク120ジカンほど、シにチカヅいた」

「は?なんだって?」

 

曰く、遡った分の10倍に相当する時間、寿命が縮んでしまうらしい。

ヨーケンはそんな事、一言も言いやしなかった。

こんなのはもう、どう考えても貧乏くじ引かされたような気にしかならない。

確かに警察になったのは、人を助けたいとか善良な市民を守りたいとかいう思いがあったからでもあるが、それはこういう事じゃない、と思う。

そして、「警察」という単語を思い浮かべて俺は思い出した。

――唐津。

あいつは何なんだ。腕?腕が刃物になったぞ?

どういう奴らか知らないが、この船でヤバい物を運び、パンデミックで世界を滅亡させようとなんてしている組織か何かの人間なのか。

 

「やばい、そろそろまたアイツが」

「このバとジカンをシハイしているとイっただろう。イわばワタシタチイガイはトキがトまっているジョウタイ。ナニモノもハイってはコられない」

「そうか、じゃあその隙に対策を考えよう」

 

何もかもが受け入れがたいが、仕方ない。

あんな話を聞いた後じゃ、これ以上1回だって失敗はしたくない。

自分の寿命がどの位かなんて分からないけれど。

 

「そうだ、あんたと一緒に動けば、危険を回避しながら舩中を探れるって事か」

「フカノウ、ではナイ」

「よし、じゃあ俺達と一緒に来てくれ」

「カマわない。だが」

「ん?」

「ワタシのコトは、あんた、ではナく、モモたんと。」

 

気に入ってんのかよ!!

 

【続く】

【第10話】

《作・新八》

「すげぇ…」

俺は思わず呟いてしまった

何が凄いかって?

みんなも想像してみてくれ

 

時が止まった世界ってやつを。

 

舞台や某ビデオのように自分以外が意識的に止まってる…なんて安っぽいもんじゃない

本当に全てが静止した世界。

人も、遠くに見える車も、周りの海でさえ動かない世界。

風すら止まってるかのようなその世界を、俺は奇妙な生物達と進む。

 

…が…

 

「…っぐっっっっ!体が…重たっい…っ!!」

「アたりマエだ。

トキをトめるということはナガれをトめるとドウギ

ナガれるぷーるだ」

「…はぁ??」

「ススむホウコウにアラガえばフカがかかる」

「…なるほど」

 

何となくだが、理解はした。

そりゃそうだ。

例えば小さく軽いものならその流れを止めることは誰にだってできる

じゃあ自分より大きく重いものは?

車や大型動物なんて誰にも止められないだろ?

ましてや川は?海は??その流れを止めることは人ではほぼ無理だ。

 

「…」

それをこの生物…モモたんは難なくやっている…

そして

 

「すごーい!

ぜんぶとまってるー!!」

 

負荷なんてかかっていないかのように、縦横無尽に動き回るメメたん…

お前はほんとになんなんだっ!?

 

「なぁ…メメたん」

「なーにー?」

「おま…えはっ!からだ!おもっ…くないのかっっ!!」

「平気ー!むしろいつもよりかるい??」

「はぁ!?」

「ほぅ。サスガだな」

 

なんなんだ?

本当になんなんだこのこいつ…いやこいつらは!

 

そういや、リープ前も腕飛んでたし…

 

というか唐津も…いや、やつは本当に唐津なのか??

メメたんやモモたんのようなやつが、唐津の姿を模した…?

…有りうる。

この2人のような奴らがいるくらいだ。

そんなとんでもない発想だって今となってはしょうがない。

 

「…はぁ…!俺のっ!にち…じょうはっ…どこにいっ…たんだっ!」

流れに逆らい負荷がかかる体で思わず愚痴ってしまった

「どんまい」×2

 

くそっ!

ハモるな!!

 

しかも…!

この負荷のせいで全然進んでねぇっ!!

やつが…唐津と思われる謎の野郎の所までどれだけかかるんだよっ!!

 

「…ふむ…オソい」

「ねー!遅いねー!」

「悪かっ…たなぁっ…!」

「シカタない。ハコぶぞ」

「あいあいさー!!」

 

えっ?

運ぶってちょい待てよっ!

 

と思うや否や

見た目少女2人に担がれようやくまともに移動する。

こんなとこ誰かに見られたら…殺される前に社会的に殺される…

世界が止まってて良かった…

 

 

2人に運ばれ、唐津がいるであろう部屋に戻ると

 

「どういうことだ…」

 

そこにいるではず姿は、どこにもいなくなっていた。

 

 

 

【続く】

【第11話】

≪作・村上貴弘≫

唐津が居ない?

唐津は居ない?そういえばミスターKが「共にいた二人もどこかに居る」と言っていた。

この船の中とは言っていない。

となると、二回目に俺の首を落とした唐津は唐津ではないのか?

いや、話自体は噛みあってた。

 

「ナニをカンがえている?」

「一人でしゃべるゲームか?」

「いや…そもそも…」

 

普通にしゃべるのも付加がかかるんかい!

 

「モモ…たん…時を…もとに…」

「そうだな。ココならタイジョウブだろう。ホッホホーイ!」

「ホッホホーイ!」

 

ん?なんだ?その掛け声は。そしてメメたんよ、なぜ復唱した。

二人共こちらをどや顔で見るのはやめてくれ。

 

「あっ、身体が軽い」

「メメたんも!」

「…うん。そうだな」

「オマエのジュミョウもカルくなったがな」

「えっ???」

「あたりまえだぞー」

「時間が止まってる中、俺だけ動いているから…」

「そのトオリだ」

 

えぇぇぇぇ!!なんてことだ。

そりゃそうなんだけどさ。死に戻りペナルティがあるんだし、なかなかのハードモードなんだからそこはサービスしてくれよ。

死んだら遡った時間の10倍、時間を止めればその時間だけ寿命を失う。

そもそも俺の寿命は後どれくらいあるんだ?

まぁ、死に戻るくらいなら時間を止める方が…

?なんだ?なにか忘れている様な…

 

「!モモたん時間を止めてくれ!」

「ン?」

「そしてモモたん、メメたん俺を安全そうな部屋へ運んでくれ!」

「わかったー!」

「ホッホホーイ!!」×2

 

やっぱりはもるんかい!

静寂。時が再び止まった世界。唐津?が使ったであろう通気口の方を見ると何かが這い出てきそうな気配を感じる。

あの時、唐津?は武装した奴らが階段から降りてきたと言った。だとすると、この部屋に来るのも時間の問題だ。そもそも唐津であるかも分からないから真実だとは限らないが用心するに越したことはないだろう。

何より、ここに居るのはまずいと俺の勘が告げる。

メメ、モモに担がれ部屋を出ると武装した男たちが、こちらに向かっている状態で止まっていた。

 

「うむ。キキイッパツというやつか」

「ファイト・イッパーツ!!」

 

うん。おれ担がれてるしね。何も言えないよ。

考えをまとめよう。

少女?に担がれながらやることではないだろうが…いや、もう少女だと思うのをやめよう!

ここは俺たちが光に包まれた数時間前。間もなく埠頭につく。

ん?武装している集団の中に見たことある顔が…

 

「ちょっと…ストップ…」

「なんですかー?」

 

ぐわっ!!!

待て待て!無理かも知れないが止まるときは二人一緒に止まってくれ!

2人の距離が縮まり身体が変な形に曲がる。

痛い。。。が、時間を止めてる間は寿命は縮まる。ゆっくりしている暇はない。

間違いない。男達の中に岡林を噛んだ男がいる。あの時とは違ってまだ人の状態だ。

そうだ!岡林!ここはあいつの乗ってた船だ。あいつも時間を遡ってるのだとすれば…

 

「メメ、モモ…医務室に…行ってくれ」

「メメたんだよ!」

「モモたんだ。」

「気分でも悪いか?」

「頼む…」

「ホッホホーイ!」×2

 

いや、その掛け声は…

時が動き始める。が、なんとか気付かれずにはすんだようだ。

頼むぜお二人さん…

幸いな事に医務室は直ぐに見つかった。中に入ってみると、ベットが1つ。その上に男が横になっている。

岡林だ。

そっと脈を確認してみると、生きてる。どうやら薬で眠っている様だ。

唐津?の件もあるから不用意に起こすのは得策ではないな。

 

「どうやらエネルギーをツカいスぎたようだ。ヤスむぞ」

 

そう言うとモモたんはメメたんのポケットに…ポケットに??入った…

色々突っ込みたいが、状況の整理が先だ。

ここは、岡林が乗っていた船。目の前には噛まれた岡林。と言う事は、この時間に居る岡林も居るはず。

ん?自分に出会ってしまったらどうなるだ?融合?反発?

そして、モモたんが休んでる今は時を止められない。

うん。絶体絶命だな。。。

 

「誰か来たよー」

 

さっきまで医療器具を口に入れたり出したりしていたメメたんが言う。

足音はすぐそこまで来ていた。やばい隠れなければ。あたりを見渡すが何もない。うーん、ベットの下!

いや、無理だよ。でもこれしかない。

ベットの下に入ったと同時ぐらいにドアが開く。

ガチャ

 

 

続く

【第12話】

≪作・ 江本和広≫

ドアが開き、誰かが部屋に入ってきた。

ベッドとドアの間にはテーブルがあり、ベッドの下に這いつくばっている俺からは相手の脚しか見えない。相手にも俺は見えていないはずだ。

 

二歩、部屋に入って止まった。

革靴。男か。

 

「声がしたような気がしたんだけど…」

唐津!

一気に俺の頭の中で思考が駆け巡る。

腕が刃状に変化して一閃で俺の首を落とした。あの感覚は忘れようがなく総毛立つ。

そんな相手に勝てるのか。今、この状態で見つかれば100%殺されるのは明白。では先手を打って勝てるような相手なのか。それも怪しい。

「あれ?」

「…もが?」

メメたん。もが?じゃない。食べかけている聴診器を口から出せ。なんで隠れていない?隠れる気がないからだな。間違いない。こうなってはもう思考を巡らせる時間などない。

 

メメたんを守らなくては。

 

身体が先に動いた。

刃を生身で受け止め、勢いで言ってみたロケットパンチを撃てるような存在だということにあとで気付くわけだが、気付くより速く、身体が動いてしまった。

ベッドの下から滑り出て立ち上がると同時にテーブルに手を付き跳びこえながら唐津に蹴りを見舞う。

「ううっ!」

吹っ飛んで壁に激突し、尻もちをついた体勢の唐津に、着地と同時に馬乗りになり拳を振り上げた。

「待って待って待って先輩!俺です!唐津です!」

「知ってるよ」

「ちょっと!なんでなんで?なんでですか?意味分かんないんですけど?」

唐津は腕で顔の辺りを守りつつ、半泣きで混乱を訴えている。場所は違えど、この状況は2回目だ。腕を刃にできるニセモノの唐津か。それとも本人か。少し観察するに、最後に記憶にあるあいつと違っている点は無いように思う。

「すまん。ちょっといろいろあってな。許してくれ」

「いやもう、何がなんだかっすよ。先輩、目がマジでしたもん。超ヤバかったっすよ」

馬乗りを解いて、手を差し出し引き起こして唐津を立たせる。身長も、記憶の中の唐津と変わらない。判断材料にはならなさそうだ。ニセモノだとしたら、果たしてどこまでコピーしているのか?警戒を解かずに探るしかない。

「はー、美味しかった、おなかいっぱい」

「メメたん、何食ってたんすか?」

「え〜?分かんない。銀色のなんか」

「アバウト〜」

「そういえば、腹が減ったな」

「言われてみれば、俺もっす」

「さっさと終わらせて、ゆっくり食べたいな。シュウマイ弁当でも」

「そっすね、食べたぐぼっ」

言い終わる前に俺は後ろ回し蹴りを放っていた。踵が鼻っ面にめり込み、吹き飛ぶニセ唐津。

「くそ。擬態は完璧だったはず。なぜ分かった?」

「お前が化けてたのは俺の部下なんだが、やつはちょっとばかりヨコハマにうるさくてな」

「意味が分からん」

「お前らには人間の感覚はちょっと難しいか?」

「下等生物が。よく言う」

さっき感じた違和感は確信に変わった。ニセ唐津を蹴った時、脚に伝わる感触が明らかに人間のそれではなかったから。

「気分を害されたので一旦仕切り直させてもらうよ。早く本物の部下と会えるといいな、カンザキ」

「「さん」を付けろよニセモノ野郎。お前が部下を何処かに隠したのか?」

「さあ?覚えていないな」

言い残して、部屋を出たニセモノはすぐに姿を消した。岡林は連れて行けないのでメメたんを連れて後を追う。

 

さてこれは、どうしたものだ。

 

パンデミックで世界を滅亡に導こうとしている謎組織に、確証はないが地球外生物?的なやつに、メメたん&モモたん、そして国家公務員の俺と唐津。

 

地球滅亡まであと何時間だ…?

勝ち目あるのか…??

仮に、仮にどっちかをどうにかできたとて、残った方の対処はどうする?

まあこっちは時間停止使えるモモたんがいるし、どうにかなるか…。

なるか…?

 

 

続く

【第13話】

≪作・マリコ≫

…どうにかなるのか??

聴診器の次は体温計に興味津々なメメたんを横目に俺は思考を巡らせた

 

タイムリープしたら、

=俺の寿命縮む

時を止めても

=俺の寿命だけ進む

 

俺の残りの寿命…プライスレス!

 

待て待て待てっー!!

あとどれくらいかは知らんが、

俺の命が尽きる可能性あるって事なわけで、そうなると、地球は、パンデミックで滅亡するんだよな…

これ、何回繰り返してやるんだよ、って思ってたけど、

回数に制限あるじゃん!

え?よく見るタイムリープものって、

【終わりがない地獄…】みたいな感じだけど、これ普通に終わりあるじゃん!

 

頭の中には、ゲームのようなハートのライフゲージが見えてきた。

与えられてるライフの中でミッションをコンプリートする…これ、ゲーム…?

 

そこまで考えて、はっ!とした

 

『メメたん!』

俺の呼びかけにメメたんは体温計を加えて振り向いた

 

『…食べてるの?』

先程聴診器を食べたのを見ただけに

恐る恐る訪ねる

 

『熱を測ってる』

 

いや、その使い方は知ってるのかよ!

どういう事なんだよ

理解不能なのは今に始まった事ではないので置いておいて…

 

『確認したい事があるんだが、もう一度、ミスターK、ヨーケンと話をさせてくれ』

『いーよ〜』

メメたんがポケットから光の球を取り出す

 

『…わざわざ呼び出しなどせずともずっと見ているぞ』

 

さっきまでのノホホンとした口調でなくなり、メメたん、いや、ヨーケンが話し出した。

 

『ヨーケン…今ずっと見てるって言ったよな。お前はパンデミックを止めて地球を救えと言った。何故俺なんだ?

…お前の部下…なのかなんなのかわからないが、メメたんや、モモたんがお前の仲間なら、だ。

わざわざ寿命という限りのある俺にタイムリープまでさせて頼む事なのか?』

 

特に悩むこともなくヨーケンが答える

 

『それは、人間がどこまで頑張れるか、見たいからだろう』

 

…え?敵はゾンビと、手が刃物に変形する化け物なんだけど…

映画やドラマじゃあるまいし勝敗みえてんじゃねーかよ…

俺が多少刑事と言う職業柄場慣れしてるとはいえ、無謀な願い過ぎる

 

『…てか、人間がどこまで頑張れるか、なんて、神様みたいな物言いだな』

 

自嘲気味に笑って答えると

ヨーケンの…いやメメたんの2つの

目が見開いた。図星といわんばかりに…

 

『…え?えー!!…か、神様…なの?』

 

その反応をみた俺は咄嗟にそう口にしてしまった

ツッコミは心の中だけにしておきたかったのに…

 

『いや、私は神ではない。』

 

『違うんかいっ!!!』

さっきの図星みたいな開眼なんだったんだよ!

 

俺のさっき同様心の中に収まりきらなかったツッコミを他所にヨーケンは話し出す

 

『君達の言う神とは、もっと高次元な存在。私は…言うならば観測者、だ』

 

『観測者…いやいや、何を観測してるんだか…』

 

今お前が観測しているのは、俺がパンデミック阻止出来るかどうかだろ

と嫌味めいた事を言いそうになったが、ヨーケンは話し続ける

 

『世界には正と負、光と闇、相反する2つのものが必ず存在し、それで均衡を保っている。その均衡を守るために、時折増え過ぎた方を粛正する事が必要なんだ

観測者とはそう言った均衡を調整し、観測しているのだよ』

 

めっちゃ説明ありがとう…

 

え?!増え過ぎた方を粛正??

って事は、パンデミックで地球滅亡って事は人類が増え過ぎって事かよ

 

『人類を粛正するなら、パンデミック止める必要ないだろう』

 

もうまるで他人事みたいに聞いてしまうが、起きてる事のスケールが違いすぎて、身近には全く感じられない

小説でも読んでその感想を言ってるのに近い。

 

『人類がいなくなるのはそれはそれで均衡を保つ事とは異なるだろう。

我々が言ってるのは単なる人数の話ではない。人類が、《希望》を持つべきものかを選定したいのだ』

 

…さっきから聞いてりゃ偉そうに…

上からの物言いは昔から好きじゃねぇ

だんだん腹が立ってきた

『ヨーケン、結局コレはオマエらが仕掛けた、人間を試すゲームって事だな』

『そう思うなら、そう考えても構わない』

『失敗すれば人類滅亡で、寿命の切れた俺は、…どうなるんだ』

『霧散する』

 

え…

 

え。

 

霧散すんの!?

 

消えてなくなるって!

ハイリスクが過ぎるって!

あるかないかしらんが、

せめて魂くらい残してくれよォ…!

 

ショックがデカすぎてちょっと柄にもなく立ち直れそうにない俺が

一応聞くだけ聞いてみた

 

『あのさ…何で俺なんだ…?』

 

ヨーケンは笑って

『神の先たる虹人(かみのさきたるにじびと)…名前だな』

 

……待ってくれ

 

 

ダジャレかよォ…ォォ…

 

俺の心の叫びはエコーを伴って

頭の中を駆け巡った

『では。ゲームオーバーにならないように…頑張りたまえ』

 

え?ちょっと…

声を掛けるか否かの瞬時にそれだけ言い残し、光の球の光は消え、

そこにはヨーケンでなくメメたんが、ずっと体温計と見つめ合っていた。

 

『メメたんありがとう』

とりあえず、ヨーケンと話させてくれた礼をいうとメメたんは

『人は…温かい』

と、またトンチンカンな事を言いだした。まあいつものことかな、と思ってみたが、何かが俺の中で引っかかる

 

温かい…体温…温度…

もしかして…何かのヒントなのか

 

ゾンビは体温は…ないよな

 

…え?ゾンビ温めたら元に戻る…とか…?

 

ないよね、そんなの…

 

とか思いつつも

俺もう今までの事で、常識やら、普通と言う認識が枠を外れて来たから、

 

え?やっちゃう?

やっちゃう?…

 

3回目のタイムリープの終了時間は

刻々と迫っていた

 

 

続く

【最終話】

≪作・秤谷建一郎≫

「いやー、せめて転生させないと話になんないよ神崎さん。話の展開が急なんだよなー。」

 

無機質な白い天井、よくある会社のデスクを挟んで、軽薄な笑いを浮かべた男が、タバコ臭い息と共に悪態をつく。

 

「要するにつまらないってこと。全然売れないよこんなんじゃ。」

「でも、唐津さんが普通じゃつまらないから、突拍子もない話にしてみろと・・・」

「限度があるでしょ限度が!大体さ、主人公を自分の名前にするとか、僕の名前出しちゃうとかセンスなさすぎ。」

「あ、、それはなんというか、その方がキャラクターを想像しやすかったんですよね。」

「あのね、とんでもない世界観なのに、急に名前普通すぎ!あとウチの編集長ゾンビにしちゃダメでしょ。ねえ!編集長。」

「イグザクトリー」

唐津の大声は響く。
こじんまりとした事務所だ。
唐津の机の上には「S1-小説家になろうコンテスト-」と書かれた資料が乱雑に置いてある。

少し離れた広めのデスクには、大きな体の外国人が鎮座しており(集明社横浜支社編集長 ホセ•メンドーサ•マルケス・パンディータ・クラウディーニョ•サントス•オリベイラ8世Jr.)と特注で作られたであろう、ネームプレートを下げた男がいる。他ではみたことないやたらと大きい面積の紙に、名前が書かれたネームプレートをぶら下げているもんだから、もはやプレートアーマーみたいになっているのだが、そんな珍妙な格好をした大柄の外国人が、何を考えているのかわからない面持ちでこちらを指差して静止している。

 

8世のJrは9世だろうと言うツッコミは、数ヶ月前に始めてあったときに飲み込んだが、やはり気にはなる。

 

もうなんか、色々と、
ただただ怖い。

「大体ね、毎回文体が変わりすぎなんだよ。もしかしてあれ?複数人で書いてんの?それくらいめちゃくちゃだし、キャラだって、なんていうか愛せないんだなー。」

「はは。。いやーでもメメたんは普通の萌えキャラじゃつまらないって唐津さんが言うから、色々付け足してあの形にー」

「アホなの?理解できてないんだよなー。あのさ、どう想像しようと思っても、メメたんのキャラビジュがふわりとも浮かんでこないのよ!ほほ袋があって?ポッケになんでも入って?刀素手で受け止めて?都合の悪いことはメメたんだから?しまいには口からシウマイ吹いて敵殺す?なにそれ!!!なによそれは!全然想像つかない。アニメ化した時どういうビジュになるのよ!てかそれ萌えるの?」

「え、かっこよくないすか?」

「ハイ、バルスバルスー。君ねクレイジーすぎー。あれヒロインだよね?空から降ってきてるもんね?確実にヒロインポジだよね?そんなんシータ想像するやん?でもさ、あれじゃーもう、どっちかって言ったらさナウシカの肩にいるあのリスみたいのしか思いつかないよ。」

「あ、テト好きっす」

「うるせっ!もうおまえうるせっ!とにかくさ、100歩譲って登場人物とかは目を瞑るとしてね、これ最後どうするつもり?風呂敷広げたのはいいけどさ、僕にはまーったく解決する未来みえないのよ。色んなとこから要素引っ張ってきちゃってるからさ、もうこれ滅亡してチャンチャンじゃないと納得できないよ。大体タイムリープものみたいに流行り取り入れたと思ったらさ、古のポートピア連続殺人事件ネタとか、もうオッサンが書いてるの確定しちゃうのよ。」

「まあ虹人はおっさんですし。」

「うん、その歳で自分のこと名前で呼ぶのやめてー。すっごく気持ち悪いからー。」

「でも、展開を一緒に考えるのが編集なんじゃ。。」

「はぁー!?このど新人が、編集の何がわかんだよ!!優しく言ってりゃつけ上がりやがってよ!!!あーあ、応募してきたあの作品はまぐれだったのかなーー?なんだっけ?アンビエントボーダーだっけ?あれは良かったのになんで書けないの?ああいうのを書けって。あー、そうか。あれもどうせゴーストライターに書かせたかー??とにかくつまんないよ、お前才能ないよ。もうやめちまえよ!大体さ・・・」

 

唐津の暴言とも取れる説教は続く。

 

なんでだよ。畜生。
こいつがこうしろああしろって言うから、
最初の形から変えに変えて、こんなメチャクチャになったのになんて言い様だ。

元はもっとまともな刑事と、空から降ってきた少女のボーイミーツガールに、流行りのゾンビものを混ぜたストレートに面白い話だったのに、誰のせいだと思ってんだ。

 

確かにこの唐津は業界では有名な、敏腕編集だと聞いてる。今回のS1でグランプリをとって、初連載にあたって、一緒に仕事をするのを楽しみにしていたって言うのに、この目の前の勝手な男のせいで、もう10回のやり直し。

 

この2ヶ月満足に寝た記憶なんかない。
もう限界だ•••

 

尚も止まらない唐津の説教もとい、罵倒をずっと聞いているうちに、朦朧としてきた。

なんだか何を言われてるのかもわからなくなって、なんだか笑えてきた。

自分でも気づかないうちに、唐津のデスクの上にあった、カッターナイフを握りしめていた。

 

「もうおまえうるせぇえええええ!!!」

 

ぐにゃりと感情が澱む。視界は開けているのに世界がぐにゃりとねじ曲がったように、頭に登りきって沸騰した血が、思考を奪った。

吹き飛んだ理性と共に、鈍く光る鉄製の刃を唐津の顔に向けて振り下ろす

その刹那

 

ギィーーーン!

 

「え!?」

 

今まさに唐津の顔面を捕らえようとした刃は何かに衝突して弾かれた。

 

「おいおい、なんでわかった?」

 

目を疑った。本来カッターナイフが通り抜けるはずの軌道には、更に大きな刃があった。

刃。いや鉄の塊とも言える円錐状の剣だった。
しかもそれは唐津の上腕と一体化しており、唐津の肘から先は鈍く銀色に光っていた。

 

「そ、そんな、それは。。。じゃあ?」

 

先ほどの軽薄なら笑いから、残酷で邪な嘲笑へとその表情を変えた唐津は、衝突があった腕の一部をさすりながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ふーん。おまえはよっぽど死にたいらしいな。俺は何度も言っただろう、こんな作品はダメだと。こんな【リアル】を書いてはダメだとな。」

「リアルって、いやこれは虹人の創作であって、、、」

「虹人言うな!」

「あ、ごめんなさい。。じゃなくて!これは一体なにが。。」

 

邪悪な笑いはいつしか、感情を感じられない程、冷たい冷たい表情へと変貌していた。

 

「お前が自分で書いてただろう。犯人はヤスだった。そういうことだよ。お前のあの作品はな、何から何までリアルなんだよ。結末は忘れてるみたいだけどな。」

「結末?それは。。。」

 

思い出せない。というより、あれは俺が創作した物語であって、この先はまだ書いていない。つまり存在しないはずだ。なんなら思いついてもない。さっき唐津、いや唐津だったものが言っていた通り、風呂敷を広げすぎて、どうまとめたらいいかすらわからなくなってる。

いや、まて、まさか俺は自分で創作していると思っていながら、ただ僅かな記憶の断片を辿っていたにすぎないっことか?

じゃあ一体あの船の中から俺はどうやってここに?

 

「世界線の移動だよ。そしてどのパラレルに移動しようが登場人物は同じ。そしてお前の運命も同じ道を辿る。取り巻く環境も、関わる人も、そして運命も、結局は同じ結末へと収束する。」

 

「世界線の移動?」

「あの船の中の部屋。あそこから出たお前は3度目のタイムリープをする。だがそこに問題は生じた。」

「どういうことなんだ?」

 

世界線の移動?それこそラノベなんかではよく耳にするが、正直この状況とそれがリンクする気がしない。ましてや俺は刑事でもないし、売れない作家だ。

 

「メメたん」

「?」

「あれはある種その世界線であるということの証明であり、指針とも言える存在。」

 

ますます意味がわからない。

 

「ママたん、ミミたん、ムムたん、メメたん、モモたん。つまり大きくこの世界は5つの世界線が並行して時間軸を未来に進めている。そしてそれぞれがいる世界は決して交差することなく、それぞれのプロセスをたどり結末を迎える。同じ人間が別環境で、別の負荷をかけられたときにくだす決断、選択、それにより別々の終わりを果たす。」

「5つの世界線。。。」

「そしてそれを観測し、BETしている者たちがいる」

「BET?そ、それはつまり。。。」

「そうだ、退屈を持てあました神々のー」

「遊び。。」

「おまえだったのか。ちがーーう!!その5つの世界線それぞれにBETしている観測者、つまり神に近い存在が、どの世界線が一番上手くいくかを賭けて遊んでいるんだよ。」

「それじゃあ俺は」

「つまりただの駒だよ。大いなる存在の遊びに使われている駒。そして俺らはその駒を妨害するために他のBET者から送り込まれた存在だ。お前はな、どの世界線においても、この世界が滅亡するかどうかに関わる大事なキーになる駒ではある。だから、俺たちは自分たちの世界線以外の神崎を結末にたどり着かせないこと。それが役目なんだよ。」

 

とんでもない話だった。
俺はただ巻き込まれ、クソッタレな観測者とやらの遊びのために人生を弄ばれてるってことだ。なんだよそれ、冗談じゃない。
でも待てよ?なんで俺はそれじゃあ別の世界線の記憶を持ったままここにいる?

 

「じゃあなんで俺は、あの作品の世界線のことを知っている?」

「イレギュラーだよ。あの世界線は本当はモモたん世界線だった。だがなぜかわからんが、メメたんがあの世界線へと現れた。そして二つの象徴たる存在が一緒にある状態で、お前たちは3回目のタイムリープをした。その結果、お前は世界線を超えて、ここに到達してしまったってわけだ。」

 

少しイラついているのか、左右に歩きながら唐津は続ける。

 

「驚いたよ・・・だからお前がどの程度、別世界線の記憶を覚えているのか、それを試してたんだよ。そしたらまあーほぼほぼ思い出してくれちゃうもんだ。こりゃあ時間の問題だと思っていたところで、お前からアクションを起こしてきたってわけだ。だから、、、」

 

ゾワッとする!
今まである意味穏やかな口調で話していた唐津の雰囲気が、急に変わる。
圧倒的な殺気と、敵意。
状況を理解する間も無く、

 

「俺としては好都合だったってことだよ!!!」

 

ブォン!!

 

銀色の塊が、唐津の筋肉の躍動と共に振り下ろされる。

全てはここで終わりなのか・・・結局何もわからずじまいだ、まあ死ぬ時なんていうのは、こんなものなのかな。

圧倒的な現実を前にして、走馬灯すら見る余裕がないほどに死がそこに迫っていた。

だがその瞬間

 

ヒュッ!!!ボンッ!!!!!!!
グシャァ

 

「ウゴォおおおおおわぁ。こ、、、これは。。」

 

ものすごいスピードで、何か石のような硬い塊が、顔の横を通り抜け、唐津の鳩尾を貫いていた。

 

「こ、これは。。」

 

更に、唐津を貫いた石のようなものは、勢いをそのままに、後ろの席にいたホセの脳天に命中し、めりこんでいた。

そう。それは白い皮に包まれ、頂点に緑の豆を冠した、中国で生まれたお茶のお供だった。

 

「てことはじゃあ。。」

 

振り向くとそこには、頬袋をむにゃむにゃさせ、笑顔でピースをする小さな女の子が立っていた。

 

「メメたん。。。」

「ギリギリセーーフぅっ」

 

そこには、あの時鮮烈なインパクトと共に、空から降ってきた少女、メメたんがいた。

 

「メメたんなのか?」

「そーだよー?もう忘れちったの?」

「でも、おまえどうしてここに、だって世界線が。」

「んーと、それはねーー。」

「それは?」

「メメたんだから!」

「ですよねー。はっはっはっは」

「そうそうー。わっはっはっはー。」

 

笑うしかない。いや、馬鹿にしてるのではなく
こんなにすっきりと、晴れやかに笑うしかないという状況を享受できたのは初めてかもしれない。生まれて初めて【笑うしかない】の本当の意味を知ったのかもしれない。

 

ガタッ

 

「うぅううう。。」

「唐津。お前まだ生きてやがったのか。」

「ハァハァ。シュウマイだと、、、なぜメメたんが、こちらに、、なぜ。。。なぜだああああああ!!!!」

 

ボンっ!!!!!!!

 

唐津が立ち上がり襲い掛かろうとしたその時、メメたんの口から追撃弾が火を吹いた。

今度こそ脳天を吹き飛ばされた唐津は、そのまま絶命した。

 

「メメたん、おまえ。」

「にししししし」

「ありがとう。。」

 

安堵のため息と共に、何かが自分の肩から抜け落ち、ある種の虚無感のようなものを感じた。
確かに危機は去った。

しかしこの状況、俺は一体この先どうすればいいのか。

「おじさんおじさん。」

「?」

「おじさんはこの先どうしたい?」

「この先?虹人は。。。」

 

俺がこの先やりたいこと・・・
作家は続けられそうにない。とはいえ、あの船のような悪夢に身を投じるのもごめんだ。
そもそも巻き込まれただけなんだから俺は。

巻き込まれた?

 

そうだ!
俺は巻き込まれた。それも想像を絶するような無邪気な悪意達にまきこまれた。

 

それはこの子だってそうだ。
考えてみれば目の前で頭を吹っ飛ばされたこいつも、急に流れ弾で死んだあの外タレも、みんな巻き込まれただけなんだ。

 

段々ムカっ腹がたってきた。
俺がやりたいこと・・・

 

そうだそれは!

「虹人は、いや俺には、ぶっ飛ばしたい奴がいる。」

「ほえ?」

「絶対に許しちゃいけない存在がいるんだ。やれるかわからないけど、それでもそいつらをぶっ飛ばさなきゃ気がすまねえんだ。」

「うひょーい!んじゃーメメたんも一緒にぶっとばーーすぅ!」

「ああ。一緒に行こう・・・でもどうやって・・・」

 

チリーン

 

容積以上のポケットからいつものように端末を取り出したメメたんは言う

 

「メメたんそいつらの場所わかるよ!」

 

もはや俺はそれにも驚かない。どうせなんでわかったと聞いたところで、帰ってくる答えはひとつだろうからな。

 

「そうか。。じゃあ行こうぜ。神だかなんだか知らないが、まとめてぶっ飛ばしによ。」

「うひょおおおおい!!」

 

俺たちは、沸々と燃え上がる怒りを拳に堪え、確かな決意を胸に運命へと歩き出した。どんな苦境も困難も障害も、本来なら超えられない世界線も変わらないはずの結末をも、根こそぎ変えるために。

 

「そうだ。」

「どったの?」

「言い忘れたことがあった。」

 

俺は首のない死体の前に立ち

 

「おい唐津。シュウマイじゃなくて、シウマイな。」

 

そして、いびつな2人組は、横浜の夜の闇に消えていった。

 

おしまい

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